概要
揮発性有機化合物(VOC)は、その揮発性や化学的反応性によって人体に悪影響を及ぼすことが知られており、中には環境省が定める特定有害物質にも指定されているものがあります。
当社は今回、ベンゼンや1,2-ジクロロエタンといった特定有害物質に分類されるVOCを対象に、独自に開発した原位置浄化技術を用いて効果的な除去を実現しました。
しかし、2025年現在でもVOCの原位置浄化は技術的・運用的に多くの課題を抱えており、普遍的な手法が確立されたとは言い難いのが現状です。本事例は、こうした現場課題に対して新たな解決策を提示し得る事例として、今後の環境修復技術の発展に貢献することが期待されています。
目次
・VOCの概要と発生の原因
・調査結果と課題の把握
・対策方法の検討と実施
・施工結果と改善効果
VOCの概要と発生事例
平成18年(2006年)、N社化学工場の解体および土壌改良工事において、周辺住民がVOCガスや粉塵による健康被害を受ける問題が発生しました。
原因は、地中に局在していた多種多様な化学物質が、掘削作業や気象条件(風・気圧・水分の浸透)の影響を受けて揮発・拡散したことにあります。
VOC(揮発性有機化合物)とは
VOC(Volatile Organic Compounds)とは、常温で空気中に揮発しやすい有機化合物の総称であり、日本語では「揮発性有機化合物」と呼ばれます。
光化学オキシダントやPM2.5の要因となる物質です。その発生は、物質の「揮発度」だけでなく、温度や土壌の状態といった「環境条件」が複雑に重なり合うことで加速されるため、施工時の厳重な管理が求められます。
(引用:環境局 VOCとは?)
調査結果と課題の把握
VOCが健康被害の問題であることを踏まえた上で、VOCに属されるいくつかの物質について調査を実施しました。 その結果は以下の表のとおりです。

指定基準値とは、土壌汚染対策法において定められた、特定有害物質が土壌または地下水に存在した場合に「汚染がある」と判断するための濃度基準値です。環境省が、長期間の摂取・暴露による健康被害を避ける観点から設定しており、土壌に含まれる物質量(含有量基準)または土壌から溶出する量(溶出量基準)として数値化されています。
調査結果によると、1,2-ジクロロエタンは環境省が定める指定基準値の52.5倍、ベンゼンは7.5倍の濃度で検出されました。 これらの値はいずれも基準を大きく上回っており、土壌および地下水を介して人の健康に影響を及ぼすおそれがある状態と評価されます。
対策方法の検討と実施
当社が開発したシステムは、マイクロバブル生成技術「セパテク」と、当社独自の微生物分解技術「バイオテク」を組み合わせたものです。 この二つの技術を組み合わせ、微生物と酸素を効率的に井戸深層部へ供給することにより、VOCの原位置浄化を実現しました。
このマイクロバブルは土壌中の細かな隙間にも浸透し、圧壊時に発生する活性酸素や溶存酸素濃度の上昇によって、微生物の働きを活性化させ、有機物やVOC(揮発性有機化合物)の分解を促進します。
実施に際しては、当社が保有する ERP KB-12株(ベンゼン分解に有効な微生物)を導入し、マイクロバブルによる酸素供給と活性酸素の効果を組み合わせることで、効率的な分解環境を形成しました。
システムの簡略図は以下の通りです。

画像引用:バイオオーグメンテーションによる揮発性有機化合物の浄化
施工結果と改善効果
この方法によって、一部の区画では臭気計(新栄OMX-GR)で約960の数値を出していたが、約24時間後には値をほぼ0まで不可逆的に低減することに成功しました。
さらに、システムは気泡発生装置と送液ポンプを一体化した小型設計のため、ビル地下や坑道などの限られた空間での施工にも対応可能です。施工性・汎用性に優れたこのシステムは、VOC原位置浄化の有効なソリューションとして期待されています。
